きみを形成する全てのものへ



one for all



麗らかな春。特製のアイマスクをし、屯所の庭でサボりを決め込んでいた沖田は案の定いつものように土方に怒られ屯所を追い出された。
真昼間から寝てる暇があるなら見回りでもして来いということなのだろう。
最近土方はどうも説教くさくなったんじゃないかと沖田は思う。
確かに沖田は真選組の中では若い方ではあるが、かと言って保護者がいなければ何も出来ないほど子供ではない。
いつまでも子ども扱いしてほしくないものだと思いを巡らせ、市中を宛ても無くのんびりと歩いた。
いつもと変わりない街の様子に軽く欠伸をしながら街を抜けて川沿いを歩く。土手では4〜5歳くらいの子供たちが走り回っていて、多少距離のある沖田のところまで笑い声が聞こえた。
自分にはあのような頃があっただろうかと考え、立ち止まって子供たちを眺める。
本来ならあのくらいの子供たちは元気に外で走り回るのが普通だろう。が、沖田は既にこのくらいの頃から大人に混じって剣術の練習ばかりしていた。
当時は特に外で遊ぶ他所の子を見て羨ましいと思ったことはないが、こうしてある程度大人の考えが出来るようになって考えてみると寂しい子供だったのかとふと思った。
しばらくぼーっと子供たちの様子を見ていると、一番身体の小さな子がこけて泣き出してしまったのが見えた。けれど周りの子は気付かずに走ってどんどん先へ行ってしまい、沖田は仕方がない、と土手を駆け下りた。

「こらこら、男の子はこれくらいじゃ泣いちゃいけねェや」
「うぅ…」
「ちょっと擦りむいただけでさァ。唾付けとけば治る」

おそらくそこらにある石か何かで擦りむいたのだろう、軽く血は出ているものの大したことはない。傷口を川の水で軽く洗ってやり、持っていた布で控えめに足を縛ってやると沖田は少年を抱き上げた。
少年はいきなり抱え上げられた事に驚いたのか、うわ、と小さく声を上げて沖田を見た。沖田はぽんぽんと軽く少年の頭を安心させるように叩いてやり、土手から上がる。
高くなった視界に歓喜の声を上げながらもやはり若干恐さが残るのか、少年は沖田の隊服をしっかりと握り締めている。

「そんなに握り締めなくても落としはしませんぜ。軽いもんでさァ」
「は、はい」

少し強めに抱えてやり少年を安心させると沖田は改めて少年を見てみる。
黒い髪と黒い眼は沖田の上司と同じ色だ。多少女のような顔をしていなくもないが、袴を穿いているのだからやはり男の子なのだろう。
これは何年後かにはたいそう可愛く――否、美人に育っていることだろう。
少年は今にも落ちそうなくらい目を開いて輝かせている。視界の高さが変わると普段見ているものが違うように見えるので、きっとそれが面白いのだ。
何にでも素直に感情を顔に表せられる子なのだな、と見ていて少し微笑ましい。

「さて、君の家は何処にあるんでィ?」
「あ、道場…」
「道場?剣術の?」

少年はこくりと頷き、また周囲をきょろきょろと見回す。足元を通り過ぎた野良猫にさえ笑顔を向けて。地面からの距離がある分、いつもより小さく見えるのだろう。

「この辺にある道場なんかいくらでも……まあゆっくり探しますかねィ」

嬉しそうにこくこくと何度も頷いて少年は沖田を見た。視界にばかり気を取られて足の痛みなどもうほとんど感じていないのだろう。
沖田はとりあえず此処から一番近い剣術道場に向けて歩を進めた。

「そういえばまだ名前訊いてなかったなァ。おい坊や、名前は?」
「え?ぁ、しむら、しんぱちです」
「新八ね、俺は沖田総悟って言いまさァ」
「そーご?」
「そう。好きなように呼んでくれィ」

そーご、そーご、と繰り返し、新八はにこにこと笑う。
新八を抱えたまま歩き続け、ようやく一番近い剣術道場に着いたもののどうやらそこではなかったらしい。新八は首を横に降った。
そしてまた歩き出す。
その調子で何軒か回ってみたがどれも新八の家の道場ではなく、空も段々と薄暗くなってきてしまった。沖田は仕方なく今日のところは新八を屯所に連れ帰る事を決めた。








「そ、総悟ォォ!!おまっ、なに、誘拐!?」
「落ち着けよ近藤さん、ただの迷子かなんかだろ?」
「はぁ…まぁ…迷子、なんですかねィ」

ちら、と新八を見て沖田は首を傾げながら言う。
屯所について直ぐ、なるべく隊士には見られないように沖田は新八を近藤の部屋に連れて行った。ついでに土方も呼び、3人で新八を囲む。
当の新八はというとはしゃぎすぎて疲れて沖田におんぶされたまま眠ってしまっていた。屯所に連れてこられても未だに起きる様子はない。
今は近藤の部屋で近藤の布団の中、ぐっすりと眠っている。

「家が剣術の道場だってんで一応思いつく限りは回ってみたんですがねェ…」

薄暗くなってきた上に新八も眠っちまうしで、仕方なく連れて帰ってきやした。
気持ちよさそうに眠る新八を見つめながら沖田は新八を連れて帰るまでの経緯を軽く説明した。それにつられて近藤と土方も新八を見る。

「明日になったら捜索願とか出てくるかもしれませんし、なかったらなかったで虱潰しに道場という道場回ってみまさァ」
「そうだな、それがいい」

近藤はうんうんと頷き、土方を伺い見た。沖田もなんとなしに土方を見遣る。
視線に気付いた土方は多少眉を顰めたが、近藤がそうしろといったのならば自分からは何も言う事はない、勝手にしろ。と言って近藤の部屋を後にした。

「トシも素直じゃないなぁ。本当は新八くんのことを心配してはいるんだろうが、俺たちがいるからそんなこと口に出せないんだろう」

苦笑して近藤は土方が出て行った襖を見る。
沖田も口には出さないが確かにそうだと思った。証拠に、土方は近藤の部屋に来てから一本も煙草を口にしなかったのだ。
子供が得意ではないが、それなりに気遣う心は持ち合わせている。
真選組副長だから当然だといわれればそれまでだが、日頃土方を見ているものからしてみればそれがどれだけ希少なことかが窺い知れる。

「まあ何にせよ明日は俺も一緒に探してやるから、早く新八くんを家に帰してやろう。今日のところはこのまま寝かしといてやるとして、総悟は何処で寝る気だ?」
「俺は今日はこのまま此処で新八見てますから、近藤さん俺の部屋で寝て下せェ」
「そうか?じゃあお言葉に甘えさせてもらうかな…お前も少しは寝とけよ」
「はい」

近藤はひらひらと手を振って自室を後にした。
近藤の気配が遠ざかると、沖田は新八を近藤の部屋に運んでくる前に自室から持ってきていた江戸の地図を取り出し、なるべく音をさせないように広げた。
今日回ってきた道場をひとつずつ指で辿り×印をつけ、まだ回っていない道場に丸印を付けていく。
剣術の道場はもう数件しか残っていなかったが、他の道場を合わせると思わず目頭を押さえたくなってしまう数だ。
沖田は地図から目を離し、静かに眠っている新八を見た。
小さな身体が微かに上下している。静か過ぎてちゃんと呼吸しているのかと一瞬疑ってしまったが、その姿を見てその心配が杞憂に終わった事を知る。
何か良い夢でも見ているのか、僅かに新八の顔が緩んでいる。
沖田もそれにつられ僅かに口角を上げると、新八の頭を撫でて新八の横に自分の分の布団を敷き、横になった。











沖田が朝目覚めると、もう隣に新八は居なかった。
一旦自室に戻り、着替えを済ませ新八を探しに屯所内を歩いていると庭から土方の声が聞こえてきた。

「んだよ」
「いっしょに、行かないんです、か…?」
「…総悟と近藤さんがいれば十分だろう」

土方と新八が二人縁側に腰掛けていた。
新八には土方が恐くないのだろうか、普通の子供なら――大人ですら気の弱い者は土方の顔を恐がるのだけれど。
沖田は敢えて近寄ることなく離れた場所から二人を見ていた。
土方はやはり煙草を口に咥えてはいるが火はつけておらず、新八の傍で喫煙する気はないのだろう。
一方の新八はただじっと土方を見上げている。
何故かそれにむかむかとした沖田は、新八を呼んだ。

「探したぜィ。朝飯は食ったのかィ?」
「あ、そーごお兄ちゃん!」
「おや土方さんも」
「…チッ、白々しい」

駆け寄ってきた新八を抱き上げ頭を撫でてやると、新八は照れたように笑った。
やはり自分には新八のような頃はなかったなと内心思い浮かべ、そうなると今度は自分がそうされなかった分とことん甘やかしたくなってしまう。

「さて、食堂行きますかねェ。新八腹減っただろィ?」
「うん」
「土方さんはどうしまさァ」

土方は眉を顰めて沖田を一瞥すると、俺はいい、と言って沖田に背を向けた。





ごつい隊士達に囲まれ多少びくびくしながらも朝食を終えた新八は、沖田が小さい頃に着ていた服に着替えた。
袖はともかく裾を少し引き摺ってしまうが、生憎真選組に子供の服を常備してあるわけもなく、それで我慢してもらう事にした。

「さァて、そろそろ行くか?」

沖田と近藤も隊服に着替え、新八を真ん中にして屯所を出たその時。

「新ちゃん!」

新八と同じくらい――否、若干大きいかもしれない――少女が屯所に駆け寄ってくる。
その声に一番反応したのは新八だ。

「あねうえ!」
「新ちゃん!心配したのよ!」

新八も駆け寄ってくる少女に近づいていく。
よくよく見てみればその子と新八はよく似ていて、黒い髪も黒い瞳も一緒だ。たぶん新八が着物でも着ていようものなら姉妹だと勘違いしてしまうだろう。
少女は感極まったのか目には薄らと涙を浮かべている。

「あねうえ、ごめんなさい」

新八はその様子を見て少女に頭を下げた。
姉上、ということは、この少女は新八の姉なのだろう。本当に良く似た姉弟だ。沖田も思わず目を見張った。
新八は何も言わない姉に、下げていた頭を上げたが姉は俯いたまま何も言わない。

「…あねうえ?」
「…ご、」
「ご?」
「ごめんなさいで済んだら警察なんかいらないのよ。知らない人にぷらぷら付いて行くなっていつも言ってんだろォがァァ!」

ひぃっ、と新八が身体を揺らして一歩下がった。
少女の目には怒りが沸々と湧いている。沖田と近藤は瞬時にこのまま育ったらとてつもない女性になってしまうだろうことを悟った。

「ま、まあまあ新八君のお姉ちゃん、落ち着いて」

近藤が鬼神の如き少女を宥めようと少女を抱き上げると、少女から遠慮のない鉄拳が飛んだ。

「とにかく新ちゃんが無事でよかったわ。何処にいたの?」
「えと、そーごお兄ちゃんたちのとこに…」

新八は近藤を見て冷や汗をかいた。姉の犠牲者はこれで何人目だろう。
あまりの惨状に新八は沖田のズボンを握り締めた。
沖田も新八の心情を察して頭を撫でてやり、少女を見た。

「新八のお姉さん、でいいのかィ?」
「この度はうちの新八がお世話になりました。私は姉の妙といいます」

妙は沖田にぺこりと頭を下げて礼を言った。
新八とそう歳も変わらないのだろうが、やけにしっかりした子供だ。

「おや、こりゃご丁寧に」
「ほら新ちゃん、これ以上ご迷惑かけるわけにはいかないから早く帰りましょう」

妙が新八の手を取り引っ張って早く帰ろうと促す。
新八は姉の手をやんわりと外し、沖田の前に立った。
沖田もしゃがんで新八と目線を合わせる。すると新八は姉がしたように沖田に頭を下げ、沖田に「ありがとうございました」と言った。
沖田はにこりと笑って新八の頭を撫でた。どうやら沖田には新八の頭は撫でたくなるような頭らしい。

「またいつでも遊びに来なせェ。歓迎するぜィ」
「はいっ」

新八は満面の笑みを浮かべて沖田に手を振り、姉と共に帰っていった。
沖田はその後姿が見えなくなるまで見送ると今度は近藤を見遣りこれをどうしようかと溜息をついた。
























[銀鱗] エイト様より 











キュン…!!

萌とか愛しさとか優しさとか萌とかをぎゅっと詰め込んだかのような沖仔新小説を頂くことに成功しました。ここ褒めるべき!私を褒めるべき!(じゃねえ)
こんなに素敵小説すぎて頂いたのが私で良いんだろうかと喜びに右往左往しておりますよ。幸 せ…!!
仔新は言わずもがなで可愛いですしね。沖田さんのお兄さんっぷりも愛しいです。涎とか素で出まs(略。
土方さんの隠れた優しさを感じる度に おまっ と トシィィ!ってなります。好きだなーもー笑
ええと、お礼こんなんで申し訳ないというかなんというか。 ハイ管理人恩を仇で返したァァ!!!(ウワーン)

ありがとうございました!!



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